そば猪口は庶民の間で育まれた実用食器です。著名な陶芸家による作品はありません。しかし、それなりに何千回、何万回と使用され、時代の流れを見つめてきた味わいがあります。「そば」の歴史と共に作り出されてきたそば猪口に当然、江戸時代以前の物はありません。古くから残されている物のほとんどは「古伊万里」といわれる陶器です。淡い藍色に染め付けられた伊万里焼の美しさは、遠く海外でも愛され、日本でしか使われることのないそば猪口に、外国からの影響が見られるのも興味深いことです。四百年もの間使われながら、今日まで傷負うことなく残されたそば猪口は、正に奇跡というほかありません。